コロナ禍に入った2020年に、“着ぐるみなし”かつ“非公式キャラクター”として活動を開始した「にゃモン」は、SNSを軸に着実にファンを増やしています。 成功すれば地域活性化につながる観光客の誘致や観光地プロモーション、関連グッズ販売など様々な経済効果が期待できるご当地キャラクター。しかし、市区町村が運営する公式キャラクターだけでも1,500体以上存在し(2021年度、日本経済新聞調べ)、そのうち成功と言えるご当地キャラクターはほんの一握りです。 今回は、地域の盛り上げ方を模索する地方広告会社に向けて、ご当地キャラクター活用のヒントや、収益化までの道のりに欠かせないSNSの活用事例についてご紹介します。 インタビューは、「にゃモン」を運営する、創業70年の老舗広告会社・株式会社鉄道広告の池田 頼紀さんに伺いました。

お土産屋で10倍以上の売上差!地元のご当地キャラで頭一つ抜けた存在へ

お土産屋で10倍以上の売上差!地元のご当地キャラで頭一つ抜けた存在へTwitterのエンゲージメントの高さに注目。3,500フォロワーで最大60万PVを達成尾道の魅力を伝えるには?あえて紹介エリアを広げ、接点を増やすコラボ打診は毎月10件以上。地元企業・団体からのコラボ依頼続々!イメージキャラクターに就任!大学ゼミと取り組んだコロナ差別をなくす「シトラスリボンプロジェクト」にゃモン発信で10~50倍の反響が。尾道限定で展開したレモンドリンク尾道市内企業のリブランディング施策にも採用。SNS経由で事例化多数。「着ぐるみナシ」が功を奏す?コロナ禍で余儀なくされた方針転換“非公式キャラクター”を選択した理由はスピード感と自由度の高さ感染拡大後に届いた数千個のぬいぐるみ。地道な展開で3年かけて収益化へデジタルだからできるローカル情報発信。全国のキャラクター愛好家を経由して尾道の認知拡大をまとめ株式会社鉄道広告について

出典「にゃモン プロフィール」 ―――尾道のご当地キャラクター「にゃモン」の現在の活動状況をお教えください。 池田氏:SNS活動のほか、主にグッズ販売や様々な企業団体とのコラボレーションを行っています。 グッズ販売ではぬいぐるみや缶バッジを中心に、尾道市観光組合運営の尾道市内でも規模の大きなお土産屋「尾道ええもんや」などの実店舗と、ECで展開しています。 尾道には複数のご当地キャラクターが存在していますが、「尾道ええもんや」のキャラクター部門では、にゃモングッズが年間売上No.1になり、マスコット商品が他キャラクターの10倍売れています。 ありがたいことに、徐々ににゃモンが受け入れられてきていると感じます。 ―――実店舗とECでの売上比率をお教えください。 池田氏:ECはSNS経由で知っていただいた遠方のファンの方が中心に利用されているため、売上は実店舗が約8割となっています。 ECではBASEを活用しているため、購入後に「購入しました!」というページをSNSでシェアいただける場合があります。 こうした投稿にもこまめに反応していくことでエンゲージメントを高めることができ、SNS活動に活かせています。

Twitterのエンゲージメントの高さに注目。3,500フォロワーで最大60万PVを達成

―――エンゲージメントの話が出ましたが、SNS運用についてお教えください。「にゃモン」がTwitterで重視している指標は何でしょうか。 池田氏:実際、もっと多くのフォロワーを抱えているご当地キャラクターは多数いらっしゃいますし、説得力を増すには数が必要だと言う声もあります。 しかし、にゃモンではフォロワー数ではなく、以下の指標を重視しています。

インプレッション数(閲覧数)リプライ・リツイートなどのエンゲージメント数EC購入につながった数

にゃモン公式Twitterの特徴は投稿に対するエンゲージメントが高いことで、1投稿当たり100~300程度のいいねをいただける場合が多いです。 月間のインプレッション数は平均20~30万、最大60万ほどあり、フォロワーの数に対しての影響力は高いと感じています。 インプレッションやグッズの販売数増加に加え、全国各地でにゃモンの「ぬい撮り」(※)を積極的に投稿してくださる方が増えるなど、“ファン”と呼べる方も着実に増えています。 にゃモンの拡散力の強さは、他のキャラクター運営企業様や企業公式Twitterの中の人などから驚かれることも多く、Twitter運用のご相談を受けることも増えました。

※「ぬいぐるみ」と「撮る」を組み合わせた言葉。旅行先などさまざまな場所で、ぬいぐるみが主役の写真を撮影すること。

尾道の魅力を伝えるには?あえて紹介エリアを広げ、接点を増やす

―――それほど多くのインプレッション数を出すコツはあるのでしょうか。 池田氏:まず、にゃモンのキャラクター自体が、ユーザーが親近感を持ち、シェアしやすい設計であることが大前提にあります。 人が親しみを持ちやすいフォルムになっていて、キャラクターデザイン時にもっともこだわった部分でもあります。猫モチーフも安定して人気があり、拡散しやすい要素になっていると考えています。 また投稿内容は、尾道から幅を広げて瀬戸内近郊の街並みやイベントなどを「ぬい撮り」で紹介するスタイルを取っています。自エリア以外の紹介も含めて積極的に、それも実際に足を運んで行うキャラクターはあまりないので、めずらしい運用方法かもしれませんね。 にゃモンは、有名観光地だけでない尾道の魅力を伝えるために生まれたキャラクターですが、新型コロナの影響で暗く沈んだ気持ちを少しでも癒せたら、という想いもあります。 そのため、尾道だけでなくエリア全体を盛り上げていく方針に切り替えました。 結果として、近隣地域のお店やキャラクターとの相互交流も増え、それぞれのファンの方がご興味を持ってくださるケースが多くあります。

コラボ打診は毎月10件以上。地元企業・団体からのコラボ依頼続々!

―――にゃモンは多くの企業やお店とコラボレーションをされています。コラボレーションの具体例をお教えください。 池田氏:コラボ展開では、地元に還元することを第一に、そして相乗効果をもたらすことを前提に企画検討しています。コラボ先の企業や団体は、鉄道広告社として以前からお付き合いのあった例もあれば、SNSをきっかけにコラボの打診をいただいた例もあります。 おかげさまで、コラボのお問い合わせは毎月10件以上いただくようになり、年間のコラボ実施数も150%ペースで増加しています。 その中でいくつか事例をご紹介します。

イメージキャラクターに就任!大学ゼミと取り組んだコロナ差別をなくす「シトラスリボンプロジェクト」

池田氏:まずは、尾道市立大学の小川研究室(以下、小川ゼミ)と取り組んだ「シトラスリボンプロジェクト」をご紹介します。コロナ禍で生まれた差別や偏見をなくすためのプロジェクトです。 小川ゼミとは、にゃモンの活動以前から地域活動やイベントにてご一緒しており、コロナ禍で停止中だったゼミの活動再開に伴いご相談を受けていました。小川ゼミが取り組む予定だったシトラスリボンプロジェクトは、コロナ禍で落ち込んだ暗い気持ちを払しょくさせたいにゃモンの運営方針とも一致していたため、ご一緒させていただくこととなりました。 にゃモンがイメージキャラクターになり、ポスター掲示やイベントにてオリジナルグッズ制作などの販促支援を実施しています。 尾道市内でポスター掲示先を募集した際には、プロジェクトに賛同した様々な店舗から10数件のお声が上がりました。 シトラスリボンプロジェクトの販促ポスターと缶バッジ

にゃモン発信で10~50倍の反響が。尾道限定で展開したレモンドリンク

池田氏:広島・岡山エリアにて書店やカフェを展開する啓文社とは、尾道限定のタピオカドリンクなどのカップにて、にゃモンを採用いただいています。 元々、にゃモングッズを書店に卸していたのですが、新商品の発売情報などをにゃモンがTwitterでご紹介すると10~50倍ほど反響があるそうです。 この反響を担当の方が見られて、「にゃモンとコラボしよう」とお声がけいただきました。

尾道市内企業のリブランディング施策にも採用。SNS経由で事例化多数。

池田氏: 商品化したコラボで特徴的な事例が、尾道市内のキッチンカーで天ぷら等を販売する「ZEST LINK」との例です。リブランディング施策のひとつとして、にゃモンをご利用いただいています。 実現した流れとしては、新しくキッチンカーを展開するにあたって、尾道レモンを使った商品開発を検討されており、そのパッケージデザインに「にゃモンを採用したい」とお声がけいただきました。 商品化された「レモンプリン」は、現在も販売中です。その他、缶バッジやのぼり旗など、グッズやデザインでも採用されています。 実は、ZEST LINK様とは元々鉄道広告社として交流があったのですが、にゃモンの存在をSNSなどで知ったあとに、運営元が弊社だとご認識いただきました。 キャラクターの認知が徐々に拡大していることを実感しましたね。

そのほか、SNSキャンペーンを実施した尾道名物のブロイラー(手羽フライ)や、愛媛県の道後温泉にある老舗団子店・つぼや菓子舗にてグッズを置いていただくなど、SNS経由でのコラボが増えるだけでなく、新たな販路も生まれています。

「着ぐるみナシ」が功を奏す?コロナ禍で余儀なくされた方針転換

“非公式キャラクター”を選択した理由はスピード感と自由度の高さ

―――事業の立ち上げについてお伺いします。2020年5月ごろから活動を開始されていますが、企画は新型コロナが拡大する以前に立ち上がったのでしょうか? 池田氏:はい。発案は2019年夏ごろで、当初は東京オリンピックのインバウンド特需に向けて、尾道や近隣エリアを盛り上げる方法、そして弊社の新たな独自コンテンツを模索していたんです。 近隣エリアにてご当地キャラクターを成功させている企業からお話を伺い、ご当地キャラクターのポテンシャルの高さを受けて、2020年はじめには尾道市内でのグッズ展開を開始する予定で動き始めていました。 当時「今さらご当地キャラクターを?」というネガティブな意見も多数ありました。 しかし、弊社は地域密着型の広告代理店であるため独自の販路を持っていること、ご当地キャラクター市場はいまだ2日で20万人以上集客するイベントもあるほど潜在的な愛好家の多い市場であることから、地域を盛り上げる方法として伸びしろがあると判断し、事業化にいたりました。 ―――にゃモンは行政公認のキャラクターではないとのこと。民間主導の運営を選択した理由は何でしょうか。 池田氏:おっしゃる通り、にゃモンは民間主導の“非公式キャラクター”(行政の公認ではないご当地キャラクターのこと)です。 民間主導の最大のメリットは、非常に軽いフットワークで動けることだと考えています。 自治体公認のキャラクターは認可を得るまでに時間を要することが多く、デザインや活動内容にも制約があります。民間企業が運営する場合、地域からの補助金等もなく収益になるまでに時間はかかるものの、ポテンシャルは無限です。 ご当地キャラクターといえば「とりあえず着ぐるみ制作」という場合が多くありますが、にゃモンにはまだ着ぐるみがありません。当時は、スピード重視でグッズ販売から開始し、自社の持つ販路を活かして2020年内の収益化を見込んでいました。

感染拡大後に届いた数千個のぬいぐるみ。地道な展開で3年かけて収益化へ

―――2020年に新型コロナウイルス感染症の感染拡大が進みました。どのような状況だったのでしょうか。 池田氏:新型コロナが流行し、当初の予定から遅れて2020年3月ごろに第一弾のグッズが数千個届きました。臨時休業や閉業で売り先がなく、とくに第一波が落ち着くまでの1~2ヵ月は今後がどうなるかもわからず、途方に暮れていましたね……。 しかし、コロナ禍で日本全体が落ち込んでいる状況を受け、元々の「東京オリンピックに向けて尾道エリアを盛り上げるご当地キャラクター」から、「コロナ禍で落ち込んだ日本全体を尾道から元気づけるキャラクター」へと方針転換をして仕切り直しました。 5月には尾道市内の店舗も営業を再開し、実店舗とECでの販売を開始しました。 コロナ禍で、予定していた2020年内の収益化予定は崩れましたが、先にご紹介したグッズ展開やコラボ、イベント参加などを経て、2022年には収益化の基盤が整ってきています。

――当初の計画から大幅に方針転換をされたのですね。自治体の認定を取得したり、着ぐるみ制作に早々に着手したりしていた場合、ここまでスピード感をもって動けてはいなかったのではないでしょうか。 池田氏:そうですね。大きな予算も時間も要しますので、新型コロナの影響はさらに大きかったでしょうし、早々に事業がとん挫していた可能性もあります。 元々、2020年の東京オリンピック開催を見据え、インバウンド向けにお土産品などを制作するためのキャラクター開発だったため、着ぐるみ制作や公認キャラクターの認定に執着していなかったことは幸いしたと思っております。

デジタルだからできるローカル情報発信。全国のキャラクター愛好家を経由して尾道の認知拡大を

―――今後の「にゃモン」の活動についてお教えください。 池田氏:にゃモンは着ぐるみなしで事業を開始しましたが、やはり、着ぐるみがあるとないとでは収益に大幅な差があります。 弊社としても事業柱のひとつへと成長させていくため、今後の活動を見越して、現在広島県の経営革新推進事業制度を利用した着ぐるみ制作を予定しています。ご当地キャラクターイベントなどにも参加し、キャラクター同士の地域間コラボや提携も増やしていきたいです。 また、現状の企業コラボでは、グッズやデザイン面でのコラボレーションが中心ですが、オリジナルメニューの開発等も実現したいと考えています。 ―――にゃモンの活動を通して、地域に貢献できていると感じる瞬間はどのようなときでしょうか。 池田氏:やはり、地元や近隣エリアの企業とのコラボ展開が増えてきていることでしょうか。 地元の方がにゃモンを受け入れ、徐々に認めてくださっていること、そしてにゃモンをきっかけに店舗に来訪したというお声も増えており、少しずつ地元企業に貢献できていると感じています。 ――地元、尾道に対する想いをお聞かせください。 池田氏:尾道は全国的にも知名度の高い観光地ですが、千光寺や尾道ラーメンなどメディアで取り上げられる部分が非常に限られています。そのためその部分だけ観光し、映える写真を撮って帰る観光客の方も多い印象です。 尾道市内は南北に長く、海があり、島があり、山があり、温泉もあり、まだまだ知られていない魅力がたくさんあり、にゃモンは尾道の魅力をさらに知ってもらうのに良い機会だと考えています。 ローカルな情報でも全国に発信できることがデジタルの強みです。尾道のまだ知られていない魅力を発信し続け、ご当地キャラクター愛好家の皆さんをはじめ、より多くの方に尾道をゆっくり散策・観光してもらえるようにしたいと強く思っています。

まとめ

なかなか軌道に乗せることが難しいご当地キャラクター運営。「にゃモン」は、コロナ禍で日本全体が混乱する状況下での活動開始となったものの、SNSをうまく活用してファンを増やし、地元企業との協働を経て、地域活性化に貢献されています。 「にゃモン」のSNSでの発信内容は、親しみやすいだけでなく、尾道や近隣エリアの日常的なローカル情報が多く、地域のことを発信している広告会社にとっても非常に参考になるのではないでしょうか。 ご当地キャラクターと言えば着ぐるみのイメージがありますが、着ぐるみなしで小さく始めても多数のコラボレーションを実現させること、地元企業から頼られる存在へと成長できることがよくわかる事例でした。今後の活躍にも期待が高まります。 お忙しい中、ありがとうございました!

株式会社鉄道広告について

本社:広島県尾道市 創業70年を超える総合広告会社。広島県、岡山県、愛媛県などの企業を中心に、交通広告やWeb広告、テレビやラジオCM、販促物制作などを手広く手掛ける。 ご当地キャラクター事業は、2019年夏ごろに立ち上げ、代表やデザイナーなどを含む数名で運営。地元や瀬戸内エリアの企業・団体と多数のコラボレーションを実施し、販促活動に貢献する。 公式サイト:https://www.tetsudo-ad.co.jp/

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